はじめに

アメリカではとても信頼できる楽器職人さんと出会えていて、数年間いつも同じ方に修理、メンテナンス、毛替えをお願いしています。が、自宅から遠いため、長時間の運転に慣れていない私には正直、行き来するだけで骨が折れます。

東京は割りに小さな街なので、地下鉄や電車での移動がとても便利。ですので、できれば東京に来たときに安心して弓の毛替えができたり、相談にのっていただけるところがあれば。。。と数年間、機会があるたびに考えていました。

実は、過去に1度、東京で毛替えをお願いしたことがあったのですが、結局、アメリカに戻ってから、いつものところでまたやり直していただかなければならなかったこともあり、今回お願いするのも少し勇気が要りました。

セキネヴァイオリン

今回、たまたま、セキネヴァイオリンさんのウェブサイト をサーチエンジンでみつけました。私にとっては行きやすい場所にあったため、とりあえず一度お願いしてみることに。

場所は 墨田トリフォニーホールの前 ですが、ビルを探すのに少し戸惑いました。ビルがちょっと古い感じ?で、お店もとっても小さい。だいじょうぶかしら??という印象を持たないわけでもありませんでしたが、そんなことよりも、大切なのは、良い仕事をしてくださるかどうか。

弓の毛はモンゴル産2種、カナダ産、イタリア産から選択

アメリカの私が住む地域ではないことですが、日本では、弓の毛の種類を選べる ということは過去の経験からなんとなくは知っていました。こちらでも同様。毛替えの相談をすると、モンゴル産2種、カナダ産、イタリア産 の4種類の毛のご紹介をいただきました。普通はあまりしないのかもしれませんが、どんな感じなのか決める前に試奏させていただくことはできますか?と伺うと、気持ちよく、もちろんです と、4種類の毛が張られている4本の弓をだしてきてくださいました。

試奏させていただき、相談にものっていただきました。イタリア産も気になったのですが、そこまで引っかからなくても大丈夫のような気がしましたし、とりあえずはじめてなので、とりあえす、一番一般的とおっしゃられていた モンゴル産のもの でお願いしました。

弓の皮の交換も

普段は自分の生徒たちのことで頭が一杯なので、あまり自分自身の楽器や弓をじっくりと観察することがないのですが、今回、毛替えをお願いするときに、皮のダメージにも気づいたので、思い切って皮の交換もお願いしました。トカゲや牛の皮で いろいろな選択肢がありましたが、今、使用しているものとあまり感じを変えたくなかったので、似たようなタイプの 牛 を使っていただくことにしました。

**こちらでは親指が弓にあたる部分を守るための、プロテクターも販売されています。これをつけると、プロテクターの材質の分、太くなってしまうため、それがいやという方々もおいででしょう。私自身は、自分でも(こちらで販売されているものとは別タイプのものですが)使用したこともありますし、私はどちらかというと弓を守るということのほうに興味があり、太さには慣れることができる体質。せっかく新しい皮に替えたのですから、その感触を直接味わうもよし、守るために手持ちのプロテクターを再び使ってみるもよし。それは今後のお楽しみ。

ありがたい割引

2営業日後の受け取りにすると、割引をいただけるとのことなので、ありがたくそうさせていただきました。(以下、セキネヴァイオリンさんのHPより。↓の青字をクリックするとHP 毛替え のページにとびます。)

セキネヴァイオリン 毛替え より

私の要望に応えていただけ、すばらしいお気遣いも

1本目の弓はドイツのもので、私が20代の頃からもう長く使用しているのですが、弓の真ん中のあたりがもう弱くなってきているのか、やわらかすぎるのか、(お店の方によると、弓のそり がどのくらいかなどにもよるようです) 過去にいろいろなところで毛替えをお願いして、うまくいかなかったことが何度もあった弓です。そのため、その心配を正直にお話しして、経験上、どちらかというと 弓の毛は短めのほうがありがたいかもしれません、という要望をだしていました。

アメリカで住んでいる地域も乾燥が気になりますが、お店を訪れた頃の日本には乾燥注意報がでていたほど。アメリカに戻ってから、問題なく使用できるよう、想定できることをお話しし、相談にのっていただいていました。

受け取ってから、あまり弾く時間もなかったのですが、大丈夫そうでしたので、2本目も、毛替え、皮の交換両方をお願いすることに。

2本目の弓はイギリスのもので、数年使用しています。音がやわらかくて気に入っていますが、数年前、教えている最中に落としてしまい、弓のヘッドが真っ二つに割れ、修理をしたことがあります。

実は、この弓の毛替えをお願いしたときにも、少し短めに という要望をだしていたのですが、同日、 「ヘッドを修理されているようなので、あまり短すぎても弓に負担がかかるかもしれないので、注意が必要ですが どのくらい短くしましょうか」と わざわざお電話をくださったのです。弓のヘッドの修理のことは、その当時は本当にひどく心が痛んで、かなり落ち込んだ事件***だったのですが、今となっては、忙しさにかまけてすっかり遠い記憶となっていました。気づいていただき、また、私の要望に応えながらも、弓に負担がかかりすぎないほうがいいい ということを感じ、作業に入る前に私に伝えてくださったこと、私は感激しました。

***本当にショックな出来事でした。私がいつもお願いしているところには弓の専門家が(そのときには)いらっしゃらず、そこからニューヨークのSalchowさんのところまで送って直していただいたのでした。

2回とも、弓の毛替えが終わった際には、その場で試奏をさせていただきました。2本目は、私が受け取りに行った時間が少し早めだったこともあったのですが、毛替えを終えた弓を見せていただいたときに、弓の毛が不揃いだったのが気になり、その場で相談すると、快く、すぐによりしっかりと乾かしてくださり、調整して、きれいにそろえていただくことができました。

また、1本目を受け取りにいく日には、ほかの用事も多々あり、時間的に弓を取りに行くことが可能かどうかも危うい状態でしたので、どうしても、(ヴァイオリン)ケースを持って出かけられませんでした。なんとかいろいろな用事を済ませて、お店が閉まる前までにになんとかお店の近くまで来ることができました。が、前出のように、ケースが手元にありません。どうしようかと本当に悩んだのですが、お店に電話をし、ケースがないのだけれど、できれば今日受け取りたい旨相談すると、弓の空箱をお譲りいただける と。ティッシュを少し入れてくださり、箱を輪ゴムで止めていただき、ただの紙の箱なので、くれぐれも気をつけてお持ちください とお話しいただき、送り出してくださいました。事情をご理解いただけたこと、本当にありがたかったです。

松脂

また、これはたまたまなのですが、私の松脂がうまくのらないような気がする ということを相談すると、松脂は時間が経つと、表面が溶けてしまい、うまくのらなくなることもある ということを教えてくださいました。これはまったく知らなかったことなので、本当にありがたい情報でした。せっかく買った松脂も時間とともに質が落ちてしまい、使い切る前に完全にさようならしなければならないものなのだと思い込んでいたからです。表面を削ることで復活するなんて! ありがたいことに、私の松脂の表面を少し削っていただけました。

松脂を塗るサービスもありますよ とのことでしたので、お言葉に甘えて、私が現在使っている松脂(ライトでさらっとした軽めのもの)に一番よく似たもので、一般的で、どこでも購入できる ベルナーデル を塗っていただきました。今使用しているものとは別のものを少し試せるのも、私はうれしかったです。

次回のお楽しみ:もう一歩踏み込んだ調整を

また、これはまた次回でいいのですが、私自身がさらっと弾いてみたところ、弓を傾けて演奏することも多く、私自身が演奏しながら弓の扱い方を変えて調整しなければならないので、もう少し扱いやすいとありがたい という相談をすると、弓の毛の向こう側にもう少し毛を増やすようにするとそうしやすくなると思う ということもお話しくださいました。この次にまた期待ができるというのはうれしいことです。

また、私自身は、環境や与えられたもののなかで、自分自身を調整し、そのなかでのベストを模索できるタイプ、つまり、ヴァイオリンや弓の状態に自分自身をあわせていけるタイプです。ときに、必ず、こうでなければならない こうでないと弾けない となってしまうことは、必ずしもよいことではありません。ただ、楽器や弓に対して、自分自身をあわせていく労力があまりに大きすぎても疲れてしまいますので、今回の毛替えの印象が今後どのように変わっていくのか、しばらく様子をみていこうと思います。

ヴァイオリン弓の毛替え

ヴァイオリンを演奏するうえで、弓の毛替えはとても大切なことです。これまでの経験からいうと、よい職人さんは、それぞれの方々が通った道のりにより、多少、考えの違いやアプローチの違いはあるものの、ヴァイオリンや弓のポテンシャルを最大限に引き出すためのお手伝いをしてくださいます。(ヴァイオリン演奏法や音楽に対してのアプローチにも同じことがいえますね。)私は、自分自身の演奏のポテンシャルを最大限に引き出せるように、必要な要望をきちんと伝え、職人さんの考えに寄り添いますし、よい職人さんは、私の思いや考えに耳を傾け、ご自身ができる範囲内で、寄り添ってくださいます。

そして、よい職人さんとのお付き合いは、そのときだけで終わらず、お互いがお互いを成長させるために存在し続けますし、そのうえに、お互いの経験が相乗することで、また豊かなものとなっていきます。

コミュニケーションはときにとても面倒なものです。音や演奏時の感覚は、言葉にすることがとても難しいからです。同じように感じていても、同じ音の質を表すにも、人によって違った言葉を使うのですから。けれども、コミュニケーションを怠らないことで、お互いがよい方向へと導かれる可能性がぐっと増すのです。今回、セキネヴァイオリンさんではとても気持ちよく私とコミュニケーションを図ってくださり、よい毛替えをしてくださり、またお願いしてみたい と感じさせてくださいました。

アメリカに戻ってからの様子

アメリカに戻ってから、昨日からレッスンをはじめていますが、弓の毛の調子は上々です。セキネヴァイオリンさんで塗っていただいたベルナーデルの松脂も、しっかり毛になじんで、よい感じです。

今の時点ではまだまだその後の様子が記せるほど弾いていないので、削っていただいた松脂、弓の毛のその後、どれくらいもつのか、などはまた改めてここに書いていきたいと思っています。

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弓の毛は何からできているの?

ヴァイオリンを乾燥から守るために

ダンピット使用時の注意

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2 thoughts on “ヴァイオリン弓の毛替え @ セキネヴァイオリン

    1. 村上まりさん、
      コメント、ありがとうございます!
      よい仕上がりになるといいですね。
      またお知らせくださいね。

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