ヴィヴァルディ a-moll協奏曲で見えた小学生ヴァイオリンレッスンの課題
今日のレッスンで、ヴィヴァルディ a-moll協奏曲に取り組んでいる小学生の生徒と向き合う中で、改めて考えさせられる出来事がありました。
私は30年近くヴァイオリン指導をしていますが、今でもレッスンの中で新しい気づきを得ることがあります。いろいろなことを当然のこととせず、かならず、ひとりひとりの生徒をきちんとていねいにみるようにすると、必ずこのようなことが起こります。
今回もその一つでした。
ヴァイオリンの移弦とポジション移動が同時に起こる難しさ
この生徒は、ある箇所で演奏が思うようにいかず少し苦労していました。
以下のような、移弦と弦上で指をすべらせないタイプのポジション移動がスラーのない状態で同時に起こるセクションに課題が見られました。

私はこの生徒をはじめてヴァイオリンを構えるところから指導していますが、確かにこのようなかたちの移弦とポジション移動のコンビネーションは過去には扱う機会がありませんでした。
けれども、これまでにも多くの生徒が私と一緒にヴィヴァルディ a-moll協奏曲を学んできましたが、同じような形でつまずくケースはあまり記憶になかったのです。
長く指導していると、
「この曲ならこのような箇所で、苦労する可能性が高い」
という一定の予測ができるようになります。
しかし今回は、その予測とは異なる形で課題が現れました。
そのため、生徒の演奏を丁寧に観察し、課題の本質を見直す必要がありました。
クロイツェル7番は今回の課題に適した教材か?
その場で一瞬、私の頭に浮かんだのはクロイツェル7番などの移弦の練習曲でした。
けれども、改めて楽譜を見直すと、クロイツェル7番では、
・弦をひとつ飛び越えての同ポジション内での移弦
が多く含まれているため、今回この生徒に取り組んでもらうにはまだ早く、不適切と考えました。
また、
・セカンドポジションも使われている (ガラミアン版)
という理由もあります。(この生徒はサードポジションをはじめてからまだそれほど時間がたっていないため、サードポジションをもっとしっかり学ぶ必要があるところにいます。)
また、カイザーやウォールファールトも見直しましたが、この課題に直結する練習曲はなかったように思われました。
私は既存の教材を使うだけでなく、生徒の課題に応じて練習用の教材やエクササイズを作成することもあります。
(例えば、よろしければこちらの記事もどうぞ:
と同時に、ウォールファールト32番は、この生徒にとてもよい練習曲なので、ぜひ取り組んでみてほしいと考えました。
ヴァイオリン指導では課題を分解して考えることが大切
私はあらためて考えました。この生徒の場合は
移弦の問題なのか
ポジション移動の問題なのか
それとも両者の連携なのか
一つの現象をそのまま「技術課題」として捉えるのではなく、要素に分解する必要があります。
そして、ファーストポジションだけであれば、同種類の移弦もそこまで苦労なくできているので、この生徒の場合には、ポジションの移動と移弦が同時に起こる際にまだ少し抵抗がある という仮説を立てました。
苦手な部分をゲーム感覚で克服するレッスンの工夫
そして、その後、レッスン中に、
・先ほどの赤丸のついた苦手なセクションをまず一緒に何度か練習し、
・その後、ポジション移動がないためあまり問題のない 緑色の丸がついたセクションも加えて練習
という形をとり、それを ゲーム感覚で楽しみながら、精神的にもストレスなく、苦手を克服することができました。


できた!と同時に もうひとつ大切なのは彼女からあふれる笑顔でした。
私はレッスンの中で、
「ここは難しいから大変だよ」
という意識を植え付けるよりも、
「ここも曲の一部として自然に弾けるようになる」
という経験を積んでもらうことを大切にしています。
技術的なサポートだけでなく、精神的な安心感もまたレッスンの重要な要素だと思っています。
もちろん、次回のレッスンでは今日できたことが定着しているかどうかをしっかり確認する予定です。
オンラインヴァイオリンレッスン(英語指導)での指導の工夫
今回の生徒はオンラインでレッスンを行っている小学生で、英語でコミュニケーションを取りながら指導しています。
オンラインレッスンでは、対面のように身体の動きを直接修正することが難しい一方で、言葉による説明や理解の確認がより重要になります。
また、生徒によって言語環境や音楽教育の背景も異なります。
そうした違いによって、同じ技術課題でも現れ方が変わることがあります。
そのため私は、
「何を教えるか」
だけでなく、
「どのように伝わっているか」
も意識しながら指導するようにしています。
ヴァイオリン教材選びの基準は難易度ではなく生徒との距離
今回のレッスンで改めて感じたことがあります。
それは、教材の難易度と、その生徒にとっての適切さは必ずしも一致しないということです。
一見適切に見えるヴァイオリン教材でも、その生徒にとってはまだ早い場合があります。
逆に、シンプルに見える課題が、その生徒にとって重要なステップになることもあります。
教師が見るべきなのは教材そのものではなく、そのときのその生徒に必要なことだと感じています。
そして、その生徒と教材との距離を見極めることなのだと思います。
ヴァイオリン教育は人を育てる|約30年の指導経験からの気づき
私は常々、
「ヴァイオリン教育は人を育てる」
と考えています。
もちろん、音程やリズム、音色といった音楽的な能力を育てることは大切です。
しかし、ヴァイオリンを学ぶことで育つのは音楽の力だけではありません。
・できないことに粘り強く取り組む力。
・課題を見つける力。
・改善方法を考える力。
・そして人前で自分を表現する力。
こうした力も、レッスンの中で少しずつ育っていきます。
今回のレッスンでも、生徒は苦手な部分と向き合い、工夫しながら乗り越える経験をしました。
その経験は、単に移弦やポジション移動ができるようになったというだけでなく、
「できなかったことができるようになる喜び」
につながっていると思います。
そして私は、このような成長は子どもだけに起こるものではないと考えています。
大人になってからヴァイオリンを始める方も、
長く学び続けている方も、
それぞれの課題と向き合いながら、自分なりの成長を重ねています。
年齢に関係なく、
昨日より少しできることが増える。
新しい発見がある。
以前は難しいと思っていたことが自然にできるようになる。
そうした積み重ねは、人生を豊かにしてくれる大切な経験だと思います。
だから私は、技術を教えるだけではなく、
生徒の皆さんが成長を楽しみ、実感できる場でありたいと考えています。